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「植物」を通して出会えた人・学んだこと

山本千莉/Senri Yamamoto

京都大学 農学研究科 応用生命科学専攻

植物はどのようにして生きているのか

 植物はどのようにして生きているのか。私が小学生の頃に疑問に思ったこのことが軸となり、大学生から現在まで植物についての研究を続けています。

 大学生の頃は、枯れ熟れ様登熟不良で早く枯れてしまうコムギの生理代謝に関する研究テーマに取り組みました。所属していた研究室では、実験スキルだけでなく圃場での農作業の楽しさや大変さを学びました。実験の内容としては、11月頃に播種作業、コムギが登熟するまでの間でのサンプリング、翌年6月頃に収穫作業や収量調査、各種分析を行いました。この研究を通して、研究室内で引き継がれている実験に加えて、新しい実験にも挑戦する機会がありました。様々な分野の先生方からご指導いただき、わからない部分をたくさん調べながら、分析条件を確立させました。最終的に、私の卒業後のデータも合わせてコムギの枯れ熟れ様登熟不良の原因として窒素代謝が関係していることを明らかにすることができました。

大学院へ進学した現在は、イネの細胞壁について生合成や機能に関する研究テーマに取り組んでいます。イネ科の細胞壁には、他の植物とは違う特徴としてフェルラ酸架橋構造の存在が挙げられ、どのように細胞壁の機能に関わっているのか、なぜその特徴を獲得してきたのか、そのようなことを明らかにしようとしています。実験の内容としては、イネの細胞壁の生合成に関わる遺伝子を探し、ゲノム編集技術を用いて細胞壁の構造を改変した植物を作り、実験室内や専用の温室で植物を育て、観察し、様々な化学分析を行っています。大学生の頃の経験や習得した技術を土台として、大学院での新しく幅広い分野について学びながら、楽しく研究を進めています。


大学の研究室でのコムギ播種作業終了後。 処理区を間違えないようにみんなで協力して寒い中作業しました。

きっかけは通学路に咲いていたタンポポ

 植物に興味を持った最初のきっかけは、思い出してみれば私が小学生だった頃です。学校終わりの帰宅途中、アスファルトの隙間から綺麗に花を咲かせているタンポポを見て「凄いところで咲いているなあ」と思ったのが最初です。ほかにも近所で咲いていたツツジの花を採ってきて、慎重にノートへ貼って観察しながらスケッチしたこともありました。この頃は植物って面白いなあと興味が出だしただけで、強く意識はしていなかったと思います。その後、中学校の理科の授業で植物が自分の力で生きていることを知り、一人で心底驚き、感動したのを覚えています。この授業をきっかけに植物のことを語ることができる学校の先生に憧れ、当時の私は高校の進路決定の直前まで理科の先生になりたくて勉強をしていました。でもある時、植物を知るには教育学部で理科の先生を目指すより、農学部や理学部へ進み、そこで学ぶ方が楽しいのでは、と考え直した結果、最終的に農学部への進学を決めました。その頃は、植物の生理面と同時に農作物の栽培や管理が実際どのように行われているのか、という点にも興味があったため、農業についても学べる学科へ進学しました。広い圃場で農業を学びながら植物の成長を日々観察する中で、既に興味を持っていた植物の生理面をより深く学びたいという思いが強くなり、大学院を探すようになりました。

 大学院探しについては、研究室のホームページで気になる研究室を探して、メールで連絡を取り、実際にいくつかの研究室へ伺ってお話をさせていただきました。最終的に現在の研究室への所属が決まり、研究テーマが細胞壁となったのは、はっきり申し上げますとご縁です。それからの日々では、大学の頃から専攻を大きく変えたこともあり、長い間基礎的な部分も含めてたくさん勉強をしながら実験をする日々が続きました。少しずつ、できることやわかることが増えていくにつれて、細胞壁の魅力や研究の面白さを感じられるようになりました。「植物はどのようにして生きているのか」を知るための細胞壁からの研究アプローチは非常に興味深く、大変なこともありますが、今の研究をとても楽しく進めています。


教科書を読んでいるだけではわからない研究ならではの瞬間

 植物のことを知りたい、学びたいという気持ちから進路を決めてきましたので、初めから研究者を目指して行動してきたわけではありません。大学及び大学院のあいだで出会えた多くの植物研究者の方々と一緒に研究に取り組むなかで「私も植物の研究者になりたい」と思うようになりました。博士課程へ進学したことを周りに伝えると、実際何をしているのかとよく聞き返されます。私も進学を考えるまでは知らなかったことも多いのですが、実際は日々実験をし、専門性を高めるだけでなく、研究内容を人にわかりやすく論理的に伝える文章力やプレゼンテーション力が求められますし、様々な研究者と日本語だけでなく英語で上手にコミュニケーションをとることも重要です。そのようなことを博士課程で学び、習得しようとしています。学会での発表はいつも凄く緊張しますし、まだまだできないことも多いですが、新しいことをたくさん学べて、色んな方に出会えて、想像していたよりもはるかに楽しい研究生活を過ごせています。

 研究を始めた直後は、日々の実験1つ1つによく感動していました。理科の教科書でしか見たことがなかったカルスを実際に目の当たりにできただけでも、当時の私にとってはとても嬉しく印象深い瞬間でした。初めて大腸菌を扱って形質転換をしていた時は、実験を繰り返してコロニーを見すぎたせいか、通学途中の電車の窓についた雨の雫がコロニーに見えたり、張り切って準備したにも関わらずコンタミさせてしまった培養プレートを見て心底落ち込んだりと、落ち着きのない新入生だったと思います。実験のなかには、成功したことを目視で確認できるようになるまでにかなり時間がかかるものもあり、植物を研究対象としているとそういう機会が多くあります。どんなにスケールの小さい実験でも成功を確認できるまでは不安でいっぱいですが、予想通りの結果や想定外の結果として表れてくる瞬間は研究ならではの瞬間で、昔も今もとても好きですし、これからも大事にしたい瞬間です。


今までの自分にはない新たな視野を求めて

 今後は、海外へ挑戦し、新たな環境の中で、植物とさらに思いっきり向き合いたいと考えています。これまでに出会った尊敬する研究者の方々の多くが海外での研究経験をお持ちであること、身近な先輩や同期の仲間が実際に海外で研究活動に取り組まれていることから、私も海外でさらに経験を積みたいと考えるようになりました。このように今ははっきり今後のことを言えるようになりましたが、長い間たくさん悩みました。生活面では、お金のことや、文化や言語の違い、先のライフイベントをどう考えたらいいのか、現状からは予想できない部分もあって、今でも正解がわからない点も多くあります。想定できるリスクは避けるように行動していたとしても、これから進んでいく中で様々な問題に直面する時が来ると思うのですが、それはその時に考えるしかないのかな、と最近ようやく少し楽観的に考えられるようになりました。また、植物を対象とした研究では、植物体内で起こる現象に対して正確な機能を解明することが難しく、幅広い知識と様々な研究アプローチから植物を多面的に評価する必要があります。新しい環境で新しいことを学ぶということは、とても楽しいことですが、とても大変なことでもあります。しかし、そこからしか見えてこない植物の一面が必ずあると考えています。博士課程のあいだで習得する能力や技術を土台に、さらに環境を大きく変えて、異なる分野・国籍の研究者との交流も積極的に行うことで、これまでにない新たな視点からの研究アプローチも取り入れつつ、課題解決に挑戦できる植物研究者を目指したいと考えています。

 

今、植物に限らず、何かに強い興味を持って取り組まれている学生さんへ

 私は大学へ進学するまでは、植物に興味を持った仲間になかなか出会えませんでした。先に何があるのかわからないけれど、それでもどうしても植物を知りたい・学びたいという理由だけで進路選択をしてきました。時には否定の言葉もありましたし、金銭面でなかなか大変な時期もあり、アルバイト三昧な日々を送ったこともあります。そんなある時、大学のある山口県から実家のある関西へ帰るためよく利用していたフェリーでたまたま出会った方とお話する機会がありました(フェリーを利用していたのは、価格が安く、旅感があって好きだったからです)。とても優しい方で色んなお話をするなかで、植物を研究したくて院試を受けようと思っていることを伝えると、「どんなことであっても本気で取り組んだ先にはきっと同じように本気で取り組んできた仲間に出会えると思うよ」と教えていただきました。当時の私にはまだわかりませんでしたが、確かにそうかもしれないな、と今では思います。当時の私は、とにかくこの言葉を素直に受け止め、こういう環境だと楽しいだろうな、こういう人に出会ってみたいな、とぼんやり考えていましたが、数年経ってふと振り返ると、考えてきたことが実際に現実で起こりつつある状況にいます。今、植物に限らず、何かに強い興味を持っている学生さん。今は一人かもしれないですが、どこかに同じことに興味を持って本気で取り組んでいる人がきっといると思います。面白そうだな、と思えることを見つけることができたなら、勇気を持って挑戦してみることをお勧めします。いつか、この文章を読んでくれた学生さんとお会いして、お互いのオタクな部分を共有できる日が来たらとても嬉しく思います。私もまだまだです。一緒に頑張りましょう。 


大学院の研究室での細胞壁を改変したゲノム編集イネの栽培。 ​一つ一つラベリングしてポットで育てます。

著者略歴

静岡県生まれ、兵庫県育ち。山口大学農学部生物資源環境科学科を卒業後、京都大学農学研究科応用生命科学専攻に進学。2022年より日本学術振興会特別研究員(DC2)。修士課程から植物細胞壁の研究を行っている。趣味は映画・アニメ・音楽鑑賞、散歩。ダンスも好きで、大学から現在までのんびり続けている。

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